きみとぼく 第11話


ガタンと地面が揺れた気がして目を開ければ、見下ろした男の顔が見えた。その表情は、昨日よりいくらか穏やかに見えなくもないが、どこか戸惑い困惑しているようにも見えた。間違いなく精神に異常をきたしているのに、自覚がない男の顔だ。
だがそれも一瞬で、あっという間にこの場所は暗闇に閉ざされた。

「な!?あの馬鹿っ、何処に!?」

慌てて起き上がり、先ほど見えた壁らしきところに向かった。
真っ暗闇だったため、距離がつかめず顔面からぶつかってしまい、仮面がぶつかるゴンという鈍い音が響き渡った。反響音でここが狭い場所だとわかる。

「・・・っ!おい!開けろ!スザク!!」

痛みに耐えながらガンガンと壁を殴るが、反応はない。
この小さな体で殴ったところで相手には聞こえないのかもしれない。

「どうしたんだ?」

後方から声が聞こえてきた。それはよく知った声。

「スザクに閉じ込められた」
「閉じ込められた?・・・っ」

痛みに呻く声がして、ああ、馬鹿がと思わず舌打ちする。

「動くな。全身火傷をしていることを忘れたのか」
「忘れてなどいないさ。だが、ここから出るためには動かなければ」

ああ、そうだな。
こんな状況で俺が動かないはずがない。

「寝ていろ、足手まといだ」
「はっ、お前一人でどうにか出来るとでも言うのか?」
「私一人ではない。ソレが居る」
「・・・ああ、コレか」

この騒ぎにも起きること無く眠っている3人目が。

「チッ、何故コレがここに」

忌々しいと言う皇帝に、ちびゼロは分かりきったことをと答えた。

「あいつがセブンだった頃の俺だからだろう」
「やはりそう思うか」

俺達は同じモノだから出る答えも同じ。
これはただの確認作業だ。

「当然だな。俺が一兵卒から専任騎士時代、そしてお前がゼロ」
「ナイトオブゼロと、ゼロか」

唯一の騎士と自分の仇であるゼロ。
思わずため息が漏れる。
それは自分だけのものなのか、それとも二人分なのか。

「おい、起きろジュリアス。・・・いや、今は」

10歳の頃の俺か?
ややこしい存在だなと再びため息が漏れる。
何でこんな状況になったのだろう。
ようやく騒ぎに気がついたのか、3人目は目を覚ました。

「うん・・・?何、まだ夜じゃないか。・・・?あれ、スザクは?」

もしかしたらという期待はあったが、幼児逆行したままのようだ。
まあ、ジュリアスのようにウザクないからいいか。アレがもしかしたら皇族のまま育った場合の自分の姿かもしれないと思うと嫌悪感しか無いし、まだ世の理不尽さを知り、皇帝に敵意を持つ子供のほうが扱いやすい。

「残念ながらすでに朝だ。スザクが何を思ったか、俺達を閉じ込めたらしい」
「スザクが?僕達を?」

信じられないというように言う。
この頃は、スザクに絶対の信頼を置いていた。
まさか自分を売って出世をしたり、自分を売って皇族に媚びへつらったり、下げた頭を土足で踏みつけたり、ナナリーを利用したり、最後には自分を殺したなんて想像もできないだろう。
それらを知っていれば、スザクならやりかねないと納得するのだが。
自分たちに自由を与えて不利益が起きることを阻止するために。
それを事細かに説明しても、この頃なら絶対に信じない自信がある。
スザクは絶対にそんなことはしないと盲信しているから。

「恐らく、俺達の安全を考えて隠したのだろう。だが、困ったな」
「ああ、このままでは水も飲めない」
「水・・・僕も喉乾いたな」
「俺達より問題はそいつだ。全身の火傷による発熱で、水分が必要だと言うのに。保冷剤もすでに用をなさない」

自分たちが今どんな存在なのかは解らないが、火傷を負い、痛みと熱を出している以上、普通の人間と同じように扱わなければいけないと考えるべきだ。・・・まあ、普通の人間の何倍も頑丈なようだし、こんな奇妙な状態なら死なない可能性もあるが。

「大変だ、ここから出ないと」
「だが、スザクは仕事に行ったから、数時間戻ってこないだろう」
「自力で出ないとだめってこと?」
「そうだ」
「なら出よう」
「出るには、ここがどこか知る必要があるな。何かヒントになることはないか?」
「俺のいる場所の上に隙間があった。そこからスザクが見下ろしているのが見えた。その後、横に床が動いたな。・・・そうか」
「引き出しだな。寝室の引き出しの可能性が高い」
「となれば、サイドテーブルの引き出しだろう。よし、場所はわかった」
「道具もなく、助けもないなら出る方法は一つだ」
「お前は寝ていろ。俺達だけでまず試す」

怪我人は邪魔だと言えば、たしかにこれはタイミングが重要だと大人しく引き下がった。だが、二人で駄目な時は動くしか無い。

「よし、いいか。まずはこの場所の距離を体で覚える。ナナリーに出来たことだ。兄である俺たちに出来ないはずがない」

子供に戻った自分に説明しながら、暗闇の中でその手を取った。

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